町田市医師会ホームページ

精神科の中の内科疾患

  • HOME »
  • 精神科の中の内科疾患

身近な医療情報

精神科の中の内科疾患

 飛鳥病院は精神科の病院です。精神科の病院というと、脳機能が問題で身体は元気な患者さんばかりが入院している印象はありませんか?とんでもありません。高齢化に伴い、身体合併症を有する患者さんが多くなり、寝たきりの方もいらっしゃいます。また、精神科治療に使用される薬により、嚥下、呼吸、消化管、循環器および排尿機能など様々な機能低下を来たすこともあります。その結果、肺炎、腸閉塞、尿閉や不整脈などが誘発されます。感染症に関しては同年代で比較すると精神科の患者さんの方が多い印象があります。


 私は、内科医として長年勤務し、その後に当院へ赴任したわけですが、ここで感じたことは、精神科では一般的な内科的常識が必ずしも通用しないことでした。精神科治療に使用される向精神薬は精神科の患者さんにとっては幻聴や妄想などを緩和してくれる極めて有効な薬ですが、その反面、患者さんの自覚症状や身体所見をわかりにくくしてしまう側面を持っています。例えば胃や腸に穴が開き腹膜炎を併発している状態でも、薬の作用により痛みを感じにくく、平気な顔で食事を食べていることもあります。診察所見でも腹膜炎で認められる典型的な腹膜刺激症状も極めて機微でヒヤリとさせられることもありました。


 また、精神科の患者さんの心電図所見は、波形の起伏に乏しくノッペリとしています。時に虚血性心疾患を疑わせるような波形を示すこともあり、薬剤の影響による変化なのか本当の心疾患を疑うべきか判断に迷うことがしばしばです。万が一狭心症などを併発しても、同様に胸痛などの自覚症状に乏しく診断の遅れにつながります。採血でも精神科の患者さんはCK値上昇を示すことがあります。本来であれば、心疾患や筋障害などをまず鑑別する必要がありますが、自覚症状の訴えは全くなく、時に重度の甲状腺機能低下症が隠されていたこともあります。笑い話ではありませんが、便秘でお腹が張ってきたと訴え、下剤を多く内服していた女性は実は妊娠していたことも・・・


 精神科の患者さんは、質問内容が理解できなかったり、自分の訴えを表現することが困難であるばかりか、薬の作用により本来出るはずの症状が隠されてしまう場合が少なくありません。精神科はある意味では言葉を発することのできない新生児の治療と似たような側面があり、患者さんの出す僅かな情報を読み取り、いかに適切な治療に結びつけるのかが精神科の中の内科治療の課題であると思います。

飛鳥病院 楠 淳一 先生

PAGETOP
Copyright © 町田市医師会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.