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鼠径(そけい)ヘルニア … 脱腸の話
皆さんは「脱腸」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。今回お話しするのは成人の脱腸(鼠径ヘルニア)についてです。ちなみに「ヘルニア」とは体内の臓器が本来あるべき部位からはみ出した状態のことで、「鼠径部」は股関節の少し頭側の部位になります 。
成人の鼠径ヘルニアは通常中高年の男性に多く、「鼠径部が腫れる」、「鼠径部に違和感がある」といった症状で気づく方が多いようです。その成因は一言で言うと「筋膜の緩み」です。男性は生まれてくる少し前に睾丸が自分のお腹の中から陰嚢に向かって降りていきます。この時、睾丸は腹壁を構成する筋膜の「くぼみ」を通ります。この「くぼみ」の部分が緩んでしまいここからお腹の内容物(腸であったり脂肪組織:大網といいます)が皮膚の下に飛び出して鼠径ヘルニアとなります。治療は「筋膜の緩み」を補強することが基本です。内服薬や筋力トレーニングではこの「筋膜の緩み」を補強することができないため手術が必要となります。従来の手術は筋膜の健常部を縫い縮めて緩んだ部位を補強する方法が一般的でしたが、20年ほど前からは「メッシュ」という人工膜で補強する術式が主流になってきました。近年さらに改良が進み様々な形状の物や柔らかいメッシュも登場しています。数年前からは腹腔鏡でメッシュを使う方法も多くなっています。手術時間はいずれも1時間ほどです。
鼠径ヘルニアは「がん」のような悪性疾患ではないので放置していても命にかかわることはほとんどありません。しかし、稀に鼠径部が腫れたまま戻らず強い痛みを伴うことがあります。この状態を「かんとん」といい、飛び出た腸が締め付けられて数時間すると腐ってしまうため緊急手術となる場合もあります。
鼠径部に「腫れ」や「違和感」がある場合には、一度診察をお受けになると良いと思います。
はなみ内科 原 正 先生