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最近の近視についての話題

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最近の近視についての話題

 この原稿が発行されるのは秋頃と聞いておりますが、夏まっただ中に原稿を書いています。春から夏にかけて眼科は学童の受診が多くなる時期です。毎年春に市内の小中学校では視力検査を実施して、その結果をA~Dランクに判定しA判定以外の結果になると眼科医への受診を勧められます。そして受診すると近視、遠視、乱視などと診断いたします。弱視といって眼鏡で矯正しても視力が出にくいお子さんや、黒板が見えていなくても眼鏡矯正されていないお子さんがまれにおり、学校での視力検診は眼科医として重要だと考えております。多くの学童では近視の診断がつくことが多いようです。小学生の約4分の1、中学生の約半数で裸眼視力が1.0未満で、その多くが近視であると考えられております。


 さて今回、眼科医の間でも話題になっている近視の最近のトピックスについてお話したいと思います。近視の進行因子としては遺伝因子と環境因子があると考えられてきましたが、近年の信頼できる研究で従来の経験則を一部裏図ける結果となっています。すなわち小児の近視進行に関して遺伝の影響が強く、都市部で進行が速く、近業(本を読んだり、手元の作業)の程度が強いほど進行が速く、戸外活動により進行が抑制され、学歴やIQが高いほど進行が速いということが明らかになってきました。


 近視進行の理論についても少しずつですが明らかになっています。ひとつは調節ラグ理論と言われるもので、近業作業による網膜(目の奥にありカメラでいうフィルムにあたります)後方への焦点の誤差(調節ラグ)、すなわち焦点が合わない時間がありこれが近視を進行させるというものです。
 もう一つは軸外収差理論(網膜周辺ボケ像)と言われるもので、眼鏡などで中心の網膜に焦点を合わせると、周辺の網膜には焦点誤差が生じそのため近視が進行するというものです。いずれの理論も網膜上での焦点のずれが眼軸(眼球の奥行)を延長させ、結果的に近視が進行すると推察しています。


 そしていま、この近視進行理論から近視進行抑制の可能性が模索されています。まず薬物療法としてアトロピンという点眼薬があります。このアトロピン点眼液による近視進行予防は多くの報告がありそのなかでは近視の抑制効果が示されています。ただアトロピン点眼液は散瞳作用、調節麻痺作用があり今のところ臨床応用には至っていません。最近、通常より低濃度のアトロピン点眼液でも近視進行予防に有効であるという報告もあります。低濃度の場合、散瞳作用・調節麻痺作用などの副作用が少なく有効な治療法の一つになる可能性があります。


 つぎに眼鏡による近視進行抑制の治療の試みについてです。眼鏡による近視抑制の試みは以前より行われていましたが、近年、先に述べた調節ラグ理論にもとづく累進屈折力レンズ、軸外収差理論にもとづく軸外収差抑制レンズが注目されています。軸外収差抑制レンズは小児を対象に多施設での研究が進行中で、一方の累進屈折力レンズは現在すでにMCレンズという名称で眼科医により処方をされています。


 この臨床応用されているMCレンズについてもう少し詳しく述べます。このレンズは近視進行の抑制の実証研究が4年間にわたり岡山大学眼科で行われました。その結果、18カ月平均の近視抑制効果は0.17D、3年間の平均近視抑制率は15%と報告されておりこのレンズの近視抑制効果は統計学的に有意であるとしています。一方で課題として統計学的に有意としたものの、年間の抑制効果は0.14Dにすぎず、近視予防法として広く推奨するのには不十分との見解もあります。しかし安全性が高く、ほかに科学的に実証された方法がない現状ではしっかりと眼科医による説明をうけた上で選択肢として考慮されてよいと考えています。


 この他、近視抑制の試みとして、特殊なコンタクトレンズやオルソケラトロジーなどが検討中ではあります。このように現在、近視の進行抑制に関し点眼剤やコンタクトレンズといった試験的な試み、および眼鏡では実際に眼科医の指導のもと近視進行の抑制レンズが処方されはじめています。


 一方で学童に対する近視の予防的治療としては安全性を第一に考え行われるべきであると考えており、その観点では眼鏡による近視抑制の試みは、効果は少ないようですがほとんど問題になる副作用は報告されておらず、眼科医に相談の上で考慮していい選択肢でしょう。また近視では遺伝的素因があるものの、携帯やゲームなど学童をとりまく環境因子、生活習慣でも近視の進行速度を一定範囲でコントロールできる統計結果も示されており、今まで経験則上、ご家庭で言われていた姿勢を正しく、ゲームなどの時間は一定の時間を守るといった近業作業時の諸注意も改めて重要であると考えております。


北村眼科クリニック・町田市立小・中学校 眼科校医 北村 静章 先生
(「学校保健」2014年10月8日号より転載)

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